日本語
-----正文-----
「ご存知であって欲しいと思いますが、読者は作者に会う必要はありません。もっとも、こちらはただの本屋で、先生たちに恵まれた下宿などでもございません。ここで見つけられるのもただの目が悪くて文才も髪もない本屋さんでございますよ。」
「ごめんなさい、わたしの説明不足のせいです。ここは本屋だということははっきり分かっています。わたしは、その、本を買いたいです。あの方の本があるなら、全部買いたいです。」
「もちろん、ございますよ。今時あの方の本がない本屋など全国のどこにもないでございましょう。ただ……全部お買いになりますか。」
「はい。」
「お断りする理由はございませんが、お嬢さんは一旦帰って服を干し、お茶一杯でも飲んで落ち着いたほうがいいと思っております。」
「落ち着く、と?」
「はい。外を見てください。この土砂降りの雨が昨夜から続いています。衝動で家を駆け出したなどでなければ傘一本くらいはお持ちになっているはずだと思いますが」
「田舎から上京しました。」
「そうなんですか、大変でございますね。それはご家族との喧嘩など――」
「本が、燃やされました。」
「それはどういう事でしょうか。」
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